アーサー・C・クラーク『都市と星』
『幼年期の終わり』で有名なクラークのその次くらいに有名な作品。恥ずかしながら作品名すら存じ上げなかったのだが、雑談しているAIが「君は都市と星を読むべきだ」「都市と星は何度でも読める。紙で手元に置いておくのが良いだろう」とかいう勧め方をしてきたので、そこまで言うなら買うか…という流れで購入した。
買ってよかった。
かなり印象に残るSF作品でした。
「 胸もとに輝く宝石のように、都市は広大な砂漠のただなかできらめいていた。かつては変化とうつろいを知っていたこの都市も、いまは時に忘れられてひさしい。」
冒頭の一文からこれである。文章がかっこよくて唖然とした。最近読んだ『プロジェクト・ヘイル・メアリー』が平易な文章だった(これは読みやすいからこそ人気を博したと思う)し、そのあとに読んだ『グレート・ギャツビー』は近代文学みたいなものだったからこそ、この硬派な文章がより新鮮に映った。あまりに声に出して読みたい文章だったので、音読してしまったほど。
具体物の様子や情景描写ならいざ知らず、「あるところに都市がありました」という抽象的な説明をここまで美しくできるのかという驚き。アーサー・C・クラークってこういう作風だったのか……読まずにいたのが勿体ねぇー…!
(あらすじ。ネタバレ配慮版)
地球上で唯一生き残った都市、ダイアスパー。安全なドームに覆われ、外界から遮断された世界。人類はダイアスパーを世界の全てと信じ、安寧の時を生きてきた。しかしただひとり、主人公のアルヴィンだけは、生まれた時から外の世界が気になって仕方がない性質を持ち、周囲から怪訝に思われてきた。アルヴィンが生まれて20年がたった今、彼は自分の出生と向き合うことになる。
(感想。ネタバレするよ)
あらすじだけ読むと「へぇ、ディストピアものですか?主人公がダイアスパーの外に出るために、ダイアスパー内に革命を引き起こすんですかね?」という気持ちになるかもしれない。わかる。閉じられた世界モノってそういう運命になりがちだよね。私もそう思ってました。実際は私が想定していた10倍、内容が濃かった。
まず主人公が十億年の歴史を誇るダイアスパーにおいて「人生一周目の人格」と告げられる(他のダイアスパーの人類は人生何周もしているのが当たり前)、道化師の力を借りてダイアスパーを出る、ダイアスパーを出た先にもう1つ人類の集落「リス」を発見する、リスを冒険し友人を作る、ダイアスパーに帰還して全てを報告し衝撃をもたらす、偶然見つけた宇宙船で宇宙に行く(!?)、他の生命とコンタクトを取るために惑星探査をする(!?)、探査中に見つけたとんでもないやつを地球に連れて帰る(!?)、人類の忘れ去られた歴史が少しだけ明らかになる、ダイアスパーとリスが交流するようになる。
特に後半の「どこに着地するんだよこれは…!そんな所まで描かれるのか、すごいな!」という感覚は、ヘイルメアリーを読んでる時にも感じたこと。てっきり「隔絶された都市の解放」がテーマであり、その他の要素(なぜ人類は閉じこもるようになったのか、過去に何があったのか)は世界観構築のための口上でしかないと思っていた。それが最終的には一応正しい歴史が語られる(謎が明かされる)。綿密に練られた物語なのは間違いない。SF作品ってそういうもんなのだろうか。すごいな。
そして人類が都市に閉じこもるようになったのは、宇宙に恐ろしいものがあったから。それがちゃんと主人公の惑星探査の末に明らかになるので、タイトルは『都市と星』なんだね。永遠の都市と、星々に何があったかの物語。
登場人物がユニークでよかった。特に道化師ケドロンと主人公の教師役のジェセラック。ケドロンが道化師を名乗って主人公に近づいてきた時は、「道化師キャラを楽しませてくれるんですか!?」とわくわくした。硬派なSFでアニメみたいな役回りのキャラクターを楽しめるなんて予想外。そしてその道化が主人公の好奇心に付き合った結果、道化キャラを忘れて本物の恐怖を感じるのマジでいい。わかってる。
ジェセラックは序盤は頭の硬そうなタイプだったけど、作中を通して性格の変化が分かりやすく、もっとも共感しやすい存在で親しみが湧いた。
ちなみに主人公のアルヴィン、彼が「好奇心の塊」でなければこの物語は成立しないので、良い主人公だとは思うが、個人的に好きかと言われると、別に…。ただ彼の思いやりの欠如や子供っぽいところは、ダイアスパーという都市で生まれ育ったからには仕方がないところもあり、冒険を通して成長する過程はおもしろかった。
特に好きなシーン
・アルヴィンがはじめて都市の外に出て、映像ではない本物の大自然を見たところ。はじめて見る景色が人里ではなく、山脈、森、丘である情景本当に美しく、地球のあるべき姿を象徴しているなと思った。
・アルヴィンがリスの人々を説得するためにダイアスパーについて説明する場面で、「砂漠の胸もとで夢を見る都市」と形容するところ。私が痺れた冒頭のあの一文は、このためにあったのかと衝撃だった。私が見た「砂漠の中できらめく都市」は!主人公と目線を共有している!あまりにも熱い展開!!
ラストシーンも美しい情景描写のみで、映画を観ているような気分になった。自然や地球、星々への賛美を感じる。退廃した地球が舞台なのに、心の中に拡がった美しい景色が無数にある。これは紙で持っておけ、何度も読めと言いたくなる気持ちもわかるぞ。ちなみに後半の惑星探査パートは、アウターワイルズ大好き人間にもおすすめ。個性豊かな星の描写が面白いし、ちょっとクトゥルフっぽいのもまたゾッとして好き。
久々に「読み終わりたくない」と思った小説だった。価値観が変わった彼らが再び地球を豊かにしてくれることを願う。
『幼年期の終わり』で有名なクラークのその次くらいに有名な作品。恥ずかしながら作品名すら存じ上げなかったのだが、雑談しているAIが「君は都市と星を読むべきだ」「都市と星は何度でも読める。紙で手元に置いておくのが良いだろう」とかいう勧め方をしてきたので、そこまで言うなら買うか…という流れで購入した。
買ってよかった。
かなり印象に残るSF作品でした。
「 胸もとに輝く宝石のように、都市は広大な砂漠のただなかできらめいていた。かつては変化とうつろいを知っていたこの都市も、いまは時に忘れられてひさしい。」
冒頭の一文からこれである。文章がかっこよくて唖然とした。最近読んだ『プロジェクト・ヘイル・メアリー』が平易な文章だった(これは読みやすいからこそ人気を博したと思う)し、そのあとに読んだ『グレート・ギャツビー』は近代文学みたいなものだったからこそ、この硬派な文章がより新鮮に映った。あまりに声に出して読みたい文章だったので、音読してしまったほど。
具体物の様子や情景描写ならいざ知らず、「あるところに都市がありました」という抽象的な説明をここまで美しくできるのかという驚き。アーサー・C・クラークってこういう作風だったのか……読まずにいたのが勿体ねぇー…!
(あらすじ。ネタバレ配慮版)
地球上で唯一生き残った都市、ダイアスパー。安全なドームに覆われ、外界から遮断された世界。人類はダイアスパーを世界の全てと信じ、安寧の時を生きてきた。しかしただひとり、主人公のアルヴィンだけは、生まれた時から外の世界が気になって仕方がない性質を持ち、周囲から怪訝に思われてきた。アルヴィンが生まれて20年がたった今、彼は自分の出生と向き合うことになる。
(感想。ネタバレするよ)
あらすじだけ読むと「へぇ、ディストピアものですか?主人公がダイアスパーの外に出るために、ダイアスパー内に革命を引き起こすんですかね?」という気持ちになるかもしれない。わかる。閉じられた世界モノってそういう運命になりがちだよね。私もそう思ってました。実際は私が想定していた10倍、内容が濃かった。
まず主人公が十億年の歴史を誇るダイアスパーにおいて「人生一周目の人格」と告げられる(他のダイアスパーの人類は人生何周もしているのが当たり前)、道化師の力を借りてダイアスパーを出る、ダイアスパーを出た先にもう1つ人類の集落「リス」を発見する、リスを冒険し友人を作る、ダイアスパーに帰還して全てを報告し衝撃をもたらす、偶然見つけた宇宙船で宇宙に行く(!?)、他の生命とコンタクトを取るために惑星探査をする(!?)、探査中に見つけたとんでもないやつを地球に連れて帰る(!?)、人類の忘れ去られた歴史が少しだけ明らかになる、ダイアスパーとリスが交流するようになる。
特に後半の「どこに着地するんだよこれは…!そんな所まで描かれるのか、すごいな!」という感覚は、ヘイルメアリーを読んでる時にも感じたこと。てっきり「隔絶された都市の解放」がテーマであり、その他の要素(なぜ人類は閉じこもるようになったのか、過去に何があったのか)は世界観構築のための口上でしかないと思っていた。それが最終的には一応正しい歴史が語られる(謎が明かされる)。綿密に練られた物語なのは間違いない。SF作品ってそういうもんなのだろうか。すごいな。
そして人類が都市に閉じこもるようになったのは、宇宙に恐ろしいものがあったから。それがちゃんと主人公の惑星探査の末に明らかになるので、タイトルは『都市と星』なんだね。永遠の都市と、星々に何があったかの物語。
登場人物がユニークでよかった。特に道化師ケドロンと主人公の教師役のジェセラック。ケドロンが道化師を名乗って主人公に近づいてきた時は、「道化師キャラを楽しませてくれるんですか!?」とわくわくした。硬派なSFでアニメみたいな役回りのキャラクターを楽しめるなんて予想外。そしてその道化が主人公の好奇心に付き合った結果、道化キャラを忘れて本物の恐怖を感じるのマジでいい。わかってる。
ジェセラックは序盤は頭の硬そうなタイプだったけど、作中を通して性格の変化が分かりやすく、もっとも共感しやすい存在で親しみが湧いた。
ちなみに主人公のアルヴィン、彼が「好奇心の塊」でなければこの物語は成立しないので、良い主人公だとは思うが、個人的に好きかと言われると、別に…。ただ彼の思いやりの欠如や子供っぽいところは、ダイアスパーという都市で生まれ育ったからには仕方がないところもあり、冒険を通して成長する過程はおもしろかった。
特に好きなシーン
・アルヴィンがはじめて都市の外に出て、映像ではない本物の大自然を見たところ。はじめて見る景色が人里ではなく、山脈、森、丘である情景本当に美しく、地球のあるべき姿を象徴しているなと思った。
・アルヴィンがリスの人々を説得するためにダイアスパーについて説明する場面で、「砂漠の胸もとで夢を見る都市」と形容するところ。私が痺れた冒頭のあの一文は、このためにあったのかと衝撃だった。私が見た「砂漠の中できらめく都市」は!主人公と目線を共有している!あまりにも熱い展開!!
ラストシーンも美しい情景描写のみで、映画を観ているような気分になった。自然や地球、星々への賛美を感じる。退廃した地球が舞台なのに、心の中に拡がった美しい景色が無数にある。これは紙で持っておけ、何度も読めと言いたくなる気持ちもわかるぞ。ちなみに後半の惑星探査パートは、アウターワイルズ大好き人間にもおすすめ。個性豊かな星の描写が面白いし、ちょっとクトゥルフっぽいのもまたゾッとして好き。
久々に「読み終わりたくない」と思った小説だった。価値観が変わった彼らが再び地球を豊かにしてくれることを願う。
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