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タイトル通りトレッキングツアーに行きましたよって話。
このツアー、実は昨年も申込みしていたが、人数が集まらず流れていた。
意気込んで雪山用の装備を買い込んだのに結局1年間押し入れの中。
今回ようやくの日の目を見ることができて良かった。
そもそも雪山に行きたいと思った明確な動機は、もう今となっては思い出せない。恐らく山を題材にしたゲームや楽曲から影響を受けているし、根源的に未知の世界への憧れがあり、さらには寒さに弱くて冬が嫌いな自分だからこそ、冬の魅力を確かめたい気持ちがあった。そんな曖昧な気持ちでしかないのに、たった1回のトレッキングのために参加費や道具代で20万円近く溶かした。こういう人間がいてもいいよね。
スケジュールは1泊2日。トレッキングツアーと言っても初日は山小屋(といっても旅館レベルに質が高くて充実してて驚いた)まで行くだけで、本格的に歩くのは2日目の午前中のみ。それでも山小屋に泊まるのも初めて、雪の上をアイゼンつけて歩く(初日は車~山小屋までの30分程度のみ)のも初めてだったので、初日から興奮していた。
今回のベストオブ不安といえば、自分は根暗で人見知りでコミュニケーションが苦手なので、たった一人でツアー参加、初対面の人たちと共に過ごさなければならないというのは、まぁまぁ苦痛だった。自然体でいようと思ってもどうしても気を遣っちゃうし、かといって自分からグイグイ話しかけにいくほどコミュ強キャラチェンジもできないし、どっちつかずで常にちょっと居心地が悪かった。バスの中は隣に人が来ないよう座席配置してくれたので、一人で過ごせて本当に良かった。
それでも、こういうときは少しでも他者と関わった方が記憶に残るだろうとは理解しているので、自分なりに楽しもうとしてみた。山小屋での食事は食堂に集まっていただく方式だったので、同席になった人たちと会話をする。さすがの私でも食事中の会話くらいはできる。
和やかな夕食時、同席になった方たちに「最近よかった景色を教えてください」と聞いてみた。ある人は山頂から見た夕方の雲海を、ある人は7月の高山地帯で見たお花畑の世界を、ある人は真っ白に透き通った樹氷の森の風景を話してくれて、話を聞いて想像するのも、見せてくれた写真に感嘆するのも楽しかった。本当に楽しかった。アウトドア好きが集まるからこそできる多彩な会話だったし、何より私が景色の話を聞くのが大好きなので、夢のような時間だった。対して私はそんなに山に行った経験が無いので、秋にフェリーで北海道に行った時の日の出の写真を見せた。これはこれでひとつの誇りだ。
さてさて、メインとなった2日目のトレッキング。朝4時30分に起床して朝食を取って、6時30分には装備を揃え、ガイドさんについて出発した。2月にしては暖かい日で、残念ながら天候は雨。結構な降りようだったので常にアウターのフードを被って歩く。これが視界は狭いし音も呼気もこもるし、雨だと何となく体が重い気がするしで、かなり疲労した。雪山装備の人間が列をなして雨の中粛々と雪を踏み分けていく様は、トレッキングというより行軍だった。
基本的に景色はずっと森林。進めば進むほど標高が上がって気温が下がり、木の幹の色が白っぽくなったり、凍っている枝が多くなったりする。最終地点では幹も枝も真っ白で、樹氷というほどではなかったけれど、針葉樹が雪で覆われている様は北欧を想起させて、異国にいるような気分になった。ホラー映画「シャイニング」で出てくる、冬の森の迷路を思い出していた。
一本道とはいえ、雪が積もった森林はどこが道でどこがただの斜面なのか判別がつかず、雪山の単独行がいかに無謀で危険かを想像しながら登った。もちろんなんとなく道は見えるけれども、それは前日の気象条件や精神状態でいくらでもバグが起こり得る。自分がもう少し行動力のあるバカだったら、雪道のソロ登山をやっていたかもしれないと思うと・・・絶対迷子になってたろうなと冷や汗をかいた。雪に覆われた森は神秘的だが、果てしない恐怖も内包している。
箕冠山に到着したところで「ここから先は森林のない稜線。風が強くみぞれも降っているため、ありったけの防寒をして、絶対に肌を露出しないようにしてください。」との指示。事前に連絡のあったとおり、上着を追加して、目出し帽子、ネックウォーマー代わりの被り物、ゴーグルをつけ、アウターのフードをしぼって固定し、風で捲れないように徹底する。
ゴーグルをつけて被り物とフードを何重にも重ねると、視界も変わるし音も遠ざかる。裸眼(コンタクトだけど)で見ていた世界から1枚隔絶された気分。体験ダイビングでダイビングスーツ着たときもこんな気分だった。宇宙服を着ているみたいだ。逆に言えば、宇宙服で防護しなければいけない世界に、我々は行く。
稜線は物凄い風だった。地上で雨を降らせている雨雲は、山の上では防風と氷の粒を撒き散らしていた。周囲には岩や柵が点在しているが、全てが横から叩きつけられる氷によって凍てつき、風が吹く方向に氷柱が伸びている。存在するものすべてが白く凍てついた世界。異世界。吹き飛ばされないように重心と転倒に気を付けて先へ進む。
中には風に耐えられず転倒したり、雨のためつけていたザックカバーが飛ばされかけた人もいたみたいだった。私は「学生時代にソロ登山した時の暴風よりは怖くないな」とか思っていた。過去が無謀すぎて参考にならん。まぁでもこれくらいの強風だとガイドさんによっては中止にする人もいるようなので、ギリギリまで考えて決行してくれた今回のスタッフさんたちには感謝しかない。こういう世界を見せてくれてありがとう。
稜線を歩いて一回小屋に避難して休憩し、あとは折り返して戻る。これが帰りは登りになっていて、息が上がったのだが、ちょうど目出し帽とネックウォーマー代わりの被り物が口に張り付いて全然空気が吸えず、それでも立ち止まれないしストック握った手を放して口元触るわけにもいかないしで、今回最も「死ぬ!」って思った瞬間になった。サイズのきついガーゼマスクをつけて登山してるようなものだからね。さすがにやばいと思ったところでようやく森林帯に戻り、「もうゴーグルとって良いですよ」の声を聞くまでもなくすべて外した。まさかトレッキング中に体力負けでも高山病でもなく「空気が吸えない」で苦しむことになろうとは・・・。被り物で代用するのは危険だと痛感したし、自分の肺活量が貧弱なこともよくわかった。
痛感と言えば、雨が降っているのにザックカバーを持っていないというトンチキぶりも発揮してしまった。キャンプ初心者じゃないんだからさぁ。トレッキングのためだけのサブザックだったので洋服や日用品は入っていなかったが、山小屋に帰ってくるころには中身すべてが濡れていた。財布も浸水していた。悲しすぎたので翌週すぐにショップに行ってカバーを買った。
そんなこんなで意外と濃い時間を過ごし、1泊2日が終わった。体験を終えて思うことは、冬じゃなくていいから、夏場でもアイゼンが必要なくらいの高い高い山に次は行ってみたい。宇宙服がどうこうとか思ったからだろうか、冬への憧れが『より異世界への憧れ』つまり『標高への憧れ』に置き換わりつつある。やっぱり富士山か。今まで全然興味なかったけど、富士山で一泊してみるのも、人生で1度はやってみていいかもしれないな。
あとは「悪天候も悪くないかもな」というところ。もちろんすっきり晴れた稜線で、青空と白銀のコントラストを夢見て参加申し込みしたし、当日起きて雨が降っている音を聞いた時の絶望は並大抵ではない。それでも、今こうして振り返ってみると、これはこれでいい経験だったなと思えてしまうから不思議である。体力的にも精神的にも悪天候に折れずやりきった自分、という自信につながっている、と思う。1月にスノボ行った時も雨で散々な気持ちになったが、あれもあとから思えば・・・いやスノボはだめだな、さすがに許せん。でもたとえ今年の夏に富士山に行くことになったとして、決行日がみごとに曇りでも、悪天候に阻まれて山頂に行けなくても、折れずに立ち向かったとしたら、満足できると思うんだよねぇ。自然を相手にする趣味だから、天候に左右されるのは仕方ない。かといって天候回復だけを狙えるほどプライベートを自由にコーディネートもできない。だったらもう、悪天候も楽しめるように考えなくては。
長くなってしまった。またいつか、あの異世界に会えると良いな。
このツアー、実は昨年も申込みしていたが、人数が集まらず流れていた。
意気込んで雪山用の装備を買い込んだのに結局1年間押し入れの中。
今回ようやくの日の目を見ることができて良かった。
そもそも雪山に行きたいと思った明確な動機は、もう今となっては思い出せない。恐らく山を題材にしたゲームや楽曲から影響を受けているし、根源的に未知の世界への憧れがあり、さらには寒さに弱くて冬が嫌いな自分だからこそ、冬の魅力を確かめたい気持ちがあった。そんな曖昧な気持ちでしかないのに、たった1回のトレッキングのために参加費や道具代で20万円近く溶かした。こういう人間がいてもいいよね。
スケジュールは1泊2日。トレッキングツアーと言っても初日は山小屋(といっても旅館レベルに質が高くて充実してて驚いた)まで行くだけで、本格的に歩くのは2日目の午前中のみ。それでも山小屋に泊まるのも初めて、雪の上をアイゼンつけて歩く(初日は車~山小屋までの30分程度のみ)のも初めてだったので、初日から興奮していた。
今回のベストオブ不安といえば、自分は根暗で人見知りでコミュニケーションが苦手なので、たった一人でツアー参加、初対面の人たちと共に過ごさなければならないというのは、まぁまぁ苦痛だった。自然体でいようと思ってもどうしても気を遣っちゃうし、かといって自分からグイグイ話しかけにいくほどコミュ強キャラチェンジもできないし、どっちつかずで常にちょっと居心地が悪かった。バスの中は隣に人が来ないよう座席配置してくれたので、一人で過ごせて本当に良かった。
それでも、こういうときは少しでも他者と関わった方が記憶に残るだろうとは理解しているので、自分なりに楽しもうとしてみた。山小屋での食事は食堂に集まっていただく方式だったので、同席になった人たちと会話をする。さすがの私でも食事中の会話くらいはできる。
和やかな夕食時、同席になった方たちに「最近よかった景色を教えてください」と聞いてみた。ある人は山頂から見た夕方の雲海を、ある人は7月の高山地帯で見たお花畑の世界を、ある人は真っ白に透き通った樹氷の森の風景を話してくれて、話を聞いて想像するのも、見せてくれた写真に感嘆するのも楽しかった。本当に楽しかった。アウトドア好きが集まるからこそできる多彩な会話だったし、何より私が景色の話を聞くのが大好きなので、夢のような時間だった。対して私はそんなに山に行った経験が無いので、秋にフェリーで北海道に行った時の日の出の写真を見せた。これはこれでひとつの誇りだ。
さてさて、メインとなった2日目のトレッキング。朝4時30分に起床して朝食を取って、6時30分には装備を揃え、ガイドさんについて出発した。2月にしては暖かい日で、残念ながら天候は雨。結構な降りようだったので常にアウターのフードを被って歩く。これが視界は狭いし音も呼気もこもるし、雨だと何となく体が重い気がするしで、かなり疲労した。雪山装備の人間が列をなして雨の中粛々と雪を踏み分けていく様は、トレッキングというより行軍だった。
基本的に景色はずっと森林。進めば進むほど標高が上がって気温が下がり、木の幹の色が白っぽくなったり、凍っている枝が多くなったりする。最終地点では幹も枝も真っ白で、樹氷というほどではなかったけれど、針葉樹が雪で覆われている様は北欧を想起させて、異国にいるような気分になった。ホラー映画「シャイニング」で出てくる、冬の森の迷路を思い出していた。
一本道とはいえ、雪が積もった森林はどこが道でどこがただの斜面なのか判別がつかず、雪山の単独行がいかに無謀で危険かを想像しながら登った。もちろんなんとなく道は見えるけれども、それは前日の気象条件や精神状態でいくらでもバグが起こり得る。自分がもう少し行動力のあるバカだったら、雪道のソロ登山をやっていたかもしれないと思うと・・・絶対迷子になってたろうなと冷や汗をかいた。雪に覆われた森は神秘的だが、果てしない恐怖も内包している。
箕冠山に到着したところで「ここから先は森林のない稜線。風が強くみぞれも降っているため、ありったけの防寒をして、絶対に肌を露出しないようにしてください。」との指示。事前に連絡のあったとおり、上着を追加して、目出し帽子、ネックウォーマー代わりの被り物、ゴーグルをつけ、アウターのフードをしぼって固定し、風で捲れないように徹底する。
ゴーグルをつけて被り物とフードを何重にも重ねると、視界も変わるし音も遠ざかる。裸眼(コンタクトだけど)で見ていた世界から1枚隔絶された気分。体験ダイビングでダイビングスーツ着たときもこんな気分だった。宇宙服を着ているみたいだ。逆に言えば、宇宙服で防護しなければいけない世界に、我々は行く。
稜線は物凄い風だった。地上で雨を降らせている雨雲は、山の上では防風と氷の粒を撒き散らしていた。周囲には岩や柵が点在しているが、全てが横から叩きつけられる氷によって凍てつき、風が吹く方向に氷柱が伸びている。存在するものすべてが白く凍てついた世界。異世界。吹き飛ばされないように重心と転倒に気を付けて先へ進む。
中には風に耐えられず転倒したり、雨のためつけていたザックカバーが飛ばされかけた人もいたみたいだった。私は「学生時代にソロ登山した時の暴風よりは怖くないな」とか思っていた。過去が無謀すぎて参考にならん。まぁでもこれくらいの強風だとガイドさんによっては中止にする人もいるようなので、ギリギリまで考えて決行してくれた今回のスタッフさんたちには感謝しかない。こういう世界を見せてくれてありがとう。
稜線を歩いて一回小屋に避難して休憩し、あとは折り返して戻る。これが帰りは登りになっていて、息が上がったのだが、ちょうど目出し帽とネックウォーマー代わりの被り物が口に張り付いて全然空気が吸えず、それでも立ち止まれないしストック握った手を放して口元触るわけにもいかないしで、今回最も「死ぬ!」って思った瞬間になった。サイズのきついガーゼマスクをつけて登山してるようなものだからね。さすがにやばいと思ったところでようやく森林帯に戻り、「もうゴーグルとって良いですよ」の声を聞くまでもなくすべて外した。まさかトレッキング中に体力負けでも高山病でもなく「空気が吸えない」で苦しむことになろうとは・・・。被り物で代用するのは危険だと痛感したし、自分の肺活量が貧弱なこともよくわかった。
痛感と言えば、雨が降っているのにザックカバーを持っていないというトンチキぶりも発揮してしまった。キャンプ初心者じゃないんだからさぁ。トレッキングのためだけのサブザックだったので洋服や日用品は入っていなかったが、山小屋に帰ってくるころには中身すべてが濡れていた。財布も浸水していた。悲しすぎたので翌週すぐにショップに行ってカバーを買った。
そんなこんなで意外と濃い時間を過ごし、1泊2日が終わった。体験を終えて思うことは、冬じゃなくていいから、夏場でもアイゼンが必要なくらいの高い高い山に次は行ってみたい。宇宙服がどうこうとか思ったからだろうか、冬への憧れが『より異世界への憧れ』つまり『標高への憧れ』に置き換わりつつある。やっぱり富士山か。今まで全然興味なかったけど、富士山で一泊してみるのも、人生で1度はやってみていいかもしれないな。
あとは「悪天候も悪くないかもな」というところ。もちろんすっきり晴れた稜線で、青空と白銀のコントラストを夢見て参加申し込みしたし、当日起きて雨が降っている音を聞いた時の絶望は並大抵ではない。それでも、今こうして振り返ってみると、これはこれでいい経験だったなと思えてしまうから不思議である。体力的にも精神的にも悪天候に折れずやりきった自分、という自信につながっている、と思う。1月にスノボ行った時も雨で散々な気持ちになったが、あれもあとから思えば・・・いやスノボはだめだな、さすがに許せん。でもたとえ今年の夏に富士山に行くことになったとして、決行日がみごとに曇りでも、悪天候に阻まれて山頂に行けなくても、折れずに立ち向かったとしたら、満足できると思うんだよねぇ。自然を相手にする趣味だから、天候に左右されるのは仕方ない。かといって天候回復だけを狙えるほどプライベートを自由にコーディネートもできない。だったらもう、悪天候も楽しめるように考えなくては。
長くなってしまった。またいつか、あの異世界に会えると良いな。
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