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日記、感想、オタ活・・・ごちゃまぜ雑多の物置蔵

久しく読書から離れていた私を再びSFに引き寄せたとんでもない本。
すべて読み割った今、「やっぱSFって面白いわ・・・!」とこれが読める喜びを噛みしめている。

この小説を知ったのは以下の記事から。
【今週はこれを読め! SF編】風の星、砂の星、崖の星、水の惑星〜中村融編『星、はるか遠く 宇宙探査SF傑作選』 - 牧眞司

偶然見かけたこの記事が頭から離れなくて、2月末に誘惑に負けて注文した。
大正解だった。

長編を読む根気が無い自分にとって「短編集」はなによりもありがたい存在だったし、アンソロジーだからこそテーマも文体も雰囲気も異なる作品に次から次へと巡り合えて決して飽きない。「探査」をカギとして集められているという点も良かった。何かを探したい、解決したいという欲求は物語と非常に相性が良いと思う。

というわけで感想を書くが、本書は短編のため、結末を知ることそれ自体が物語全てを知ることになりかねない。ほとんどすべての話が「事前情報なしで読むのが一番面白い」と言えるので、ちょっとでも興味がある場合、以下のネタバレを含む感想は読まないことを推奨する。なんならさっき引用した記事も読まない方がいいくらい。忘れた頃に買ってくれ。


以下、感想。

特に好きだったのは「異星の十字架」。
読み終えてみると単純でお約束な物語だなと思うが、初見の私はこの物語に出てくる神父並みに察しが悪かったので、めちゃめちゃ楽しめた。ああそうやって帰結するのか、と腑に落ちる感じが最高に気持ち良い。最後は、取り返しのつかないことをしてしまったと知った異星人のセリフで締めくくられるのだが、それまでコミカルでファンタジックに描かれていた雰囲気が後ろ暗い発言で終わる、という温度差もまた満足感を爆上げしている。

「ジャン・デュプレ」はSFというより、英雄のいる戦争映画のようで、映画一本見終わったような読後感があった。2010年代の映画でこういうシナリオありそうなんだよな。そう感じるくらい現代で読んでも色褪せていないのが名作たる所以か。

「故郷への長い道」は、トップに掲載されるのが納得のいく話だった。それまで本書のことを「宇宙の深遠でやばい上位存在に遭遇する」みたいな話のアンソロジーだとなぜか想像していたので(たぶん帯のせい)、「宇宙の果てで不思議なものを見つける」というこの作品の温度感・緊張感は、アンソロジーの主旨を理解するのに大変役立った。なお、マヤ文明の都市伝説を子どものころにテレビで見ていた私にはあまりにも刺さりすぎる真相だった。

「風の民」、この背徳的で耽美な雰囲気は間違いなくゴシックホラー。登場人物の葛藤すら美しく見えて困惑する。(だからといってアンソロジーに相応しくないよねって言いたいわけではなく、むしろこういう作風もあるのは大変面白いと思います)


「タズー惑星の地下鉄」、地下鉄ってよく考えたらめっちゃロマンだよな・・・!という謎の興奮を得た。遺跡じゃなくて地下鉄っていうのがまぁかっこいい。かつてここにあった高度文明をその一言で証明できるんだからすごいもんよ。こういうロマンに共感できる人なら絶対面白く読める。

「地獄の口」、なんの説明もなく探検隊がもくもくと進む様子から始まり、そのまま困難に突き当たってドラマがあって物語が終わるので、翻訳者の前説が無ければ理解不能だったかもしれない。ただ、場景は毒々しいくらい鮮やかで、理解も追いつかずにそんなのを読み進めていくのは、ヤバい夢を見ている感覚に似ている。エンディングが淡々とその後の世界を説明しているのが結構好き。対比が効いている。

「鉄壁の砦」、これもホラー。どうにも私は、真相がわかる怪異はSF、真相がわからない怪異はホラーと理解しているところがある。そういう分類で行くとこれはホラー・・・だが、広大な砂漠に建つ孤独な砦、というロケーションが雰囲気最高なので、そんなことはどうでもよくなる。

「総花的解決」、タイトルが堅苦しいわりに本書で最もコミカルでユーモアがある作品。訳者あとがきを読むと、タイトルの意味とユーモアをぶち込む必要性にも納得がいく。マニャンという外交官が出てくるのだが、名前にひっぱられて私の頭の中ではずっと半獣人(猫)の神経質な男性のデザインだった。私の頭の中でだけ、世界観がますむらひろし(「銀河鉄道の夜」を猫主人公でキャラデザした人)だった。

ラストを飾る「表面張力」は、プロローグ時点ではなぜそんなタイトルなのか想像できなかったのだが、その意味を理解した瞬間、鳥肌が立った。引用した記事にも書かれていたが、「水の中」という異世界にもかかわらず、徹底した描写のおかげで光景をはっきりと思い描くことができるのがすごい。最後の方はなんかもう映像がマジで鮮明に見えるし、パラが息絶えるシーンは感極まってちょっと泣いた。「知識にできないことは何もない」って、知識をフルに使って困難を成し遂げた人間に対するセリフとしてはかなり感動的だし、ここでプロトと人間たちの確固たる同盟が約束されたことで未来(哺乳類の進化)が約束されたようなものだと思わせる手法もずるい。さらにそのエンディングに運命的な再会もぶち込んでくるのはやりすぎではと思わなくもないが、物語がここで終わるのだから、成すすべなく死ぬしかなかったプロローグの絶望をひっくり返すくらいの希望があって当然だろう。この小さな冒険者たちに幸あれ。


気が付いたら全作品の感想を書いていた。


こうして感想が書きたくて仕方ない熱意を持ったのも久々だし、文庫本をこれほどの短期間で読み終えたのも久々。そして火が付いた読書欲にまかせて今日は5冊も本を買ってしまった。SFって面白いんだという当然のことを思い出させてくれた本書に心から感謝を。願わくば今後もこういうアンソロどんどん出版してください・・・!

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